いじめ⑤
その翌日、彼女は1人でやってきた。着替えていた。匂いもなかった。そっと聞いた「大丈夫?」。「うん」と彼女は笑った。いつものように、年齢の違う他の子達と彼女は静かに過ごしていた。出来るだけいつものように過ごした。愛着障があるとしても、特別扱いしない事、共依存の関係を作らない事、お互い心の奥で接する事、表面的解決では意味が無いと僕らは思っていた。誰の課題なのか。それは、僕たちにも課題を与えた。僕らには、誠実さしかなかった。1人残った彼女に少し話を聞いた。嫌な家の掃除や、片付けなどはなくなったと彼女は言った。嫌な事がだいぶ減ったと彼女は言った。それが表面的な事だとしても、今はそれでいいのだろうと思った。まだ大丈夫ではない事を、彼女も僕たちもわかっていた。それでも今は彼女の力を信じるしかなかった
それからも、彼女はお店にやってきた。絵を書いたり、お手伝いをしてくれたり、少しづつ昔の彼女に戻っているようだった。少しづつあれがやりたい、やってみたいが増えてきた。彼女の無意識から何かを探ろうとする大人の悪い癖は意識して封印するようにした。大丈夫か?と言うと、決まって「うん」と言う彼女。まだまだ大丈夫な訳はない。何も出来ない自分を責めてしまう事も封印した。心を素直に保つこと、それしか出来る事はなかった。
何日後、uni:neuが行う西成こども里でのワークショップに彼女をスタッフとして誘った。驚いた事に彼女はこどもの里の事を知っていた。昔お父さんに連れられ行った事があるとの事だった。夜の見回りにも参加した事があるとの事だった。 一緒にこどもの里まで行った。何人かの子が彼女を睨みつけていた。こどもの里の館長は彼女がいる事に気づき彼女の元に向かった。「お父さんは大丈夫か?」と尋ねていた。彼女は「うん」と言った。彼女を睨んでいた子が僕の所に来て「なんで、あの子がおるん!」と、僕を睨みながら言った。「〇〇は、うちのスタッフやからおんねん」と答えた。いじめはなくならない。残念ながらそう思った。
数日後、担任の先生が慌ててお店にやってきた。学校に来ない彼女を家まで迎えにいき、学校の前まで来た時、急に彼女が走って逃げだしたので探しているとの事だった。汗だくで、ひどく慌てていた。見かけたら連絡お願いします。又、近所を探してみますと先生は言って慌てて出て行った。いい先生だと思った。先生が出て行った後、僕とたまちゃんは笑った。世間の常識から外れるかもしれないが、とても嬉しかった。
逃げーーー! どんどん逃げーーー! 逃げたいときは、思いっきり逃げーーーー! 自分の意思で、行きたい所にいきなさい!
何故だか、もう大丈夫だと確信した。
それからも、彼女は時々お店にやってきた。
「お前この前逃げたやろー」っと笑いながら聞いた。 「うん」と彼女も笑った。
ふと「〇〇、将来何になんねん!」と聞いてみた。
「私、保育士さんになりたい。小さな子が好きやから」と彼女は笑顔で言った。
今でも、時々LINEで彼女の名前があがってくる。
しょうもないゲームばっかりしやがってっと、安心する。
なにかあったらいつでも訪ねておいで。 なにもなくてもいつでもおいで。 僕たちは、いつものように何も特別な事はしないけど。
あなたは、なんにでもなれる。 あなたは、どこにでもいける。
あなたの人生は、あなたのものだから。